明治43年、日本画家・奈良裕功(秋田県鹿角市出身・1894-1983)は画家を志して上京し、寺崎廣業の門をたたきました。裕功は廣業の下で古画の模写や写生に励み、画家として歩み始めますが、ただその道は画家としての名利を追うものではなく、画境の高みを求め続けた清廉なものでした。そして古今の技法を廣業から、透徹した精神性を後年師事した平福百穂から受け継ぎ、真摯な姿勢に貫かれた写生を遺しています。
描かれているものは山野に出会う名も知らぬ花、朽ちかけた木々や落葉などありふれた自然の姿です。普通なら見過ごされる景色の中に、奈良裕功はかけがえのない美しさを見出しているのかも知れません。
「時有幽花」。奈良裕功の素描の森を逍遥し、ひっそりと咲く花々に出会っていただきたいと思います。