あまりにも美しい景色のたとえに「絵にも描けない美しさ」と表現することがあります。画家が描く風景は、画家が持っているフィルターを通して見た景色です。対象と向き合ったとき、はたしてその美しさに対して手持ちのフィルターでは事足りず、絵にすることを控える画家もいるのかもしれません。
その一方で、多様でもっと濃いフィルターを持ち合わせているのは版画家たちです。見たことをそのまま作品にしようとしても、版画にはなりません。そこには、まず手はじめに形の抽象化というフィルターが必要となります。版画作品はこのようなフィルターを何枚か通すことによって作者の気持ちが反映され、独特の味わいある作品へと昇華するのです。
この展覧会では、日本や海外の景色をはじめ、なつかしい暮らしや日常のひとこまなど、人々の暮らしに溶けこむ風景を版画で表現した作品を紹介します。皆さんのふるさとや思い出の場所も見つかるかもしれません。版画ならではの味わいのある世界をお楽しみください。