安井曾太郎(1888?1955)は、20世紀の油彩画を俯瞰する上で、欠かすことの出来ない写実の画家です。京都で浅井忠に洋画を学び、1907年から7年間をパリに過ごし、フランスの新しい潮流を吸収しました。特にセザンヌの影響は決定的で、その後の安井に重要な意味を持っています。後半生の安井は、考え抜かれた構図を艶麗芳醇な色彩でおおう作品を数多く残しました。
1930年代初め、新たな様式を確立したと同時に、安井は肖像画の名手という評価を与えられました。最晩年までに描かれたモデルは、教育者、文学者、政財界人に及んでいます。それらは丹念な写生を出発点とし、十分な時間をかけて造形の試行が繰り返されました。風景画、静物画にも多くの佳作を残していますが、肖像画のみをとおしても安井芸術の真価を検証、確認することができます。本展は、安井が制作した肖像画のうち重要作に、習作デッサン、記録写真などを加え、彼の造形プロセスや、モデルと安井との交流、あるいは依頼者と関係が及ぼした影響などを探るものです。