近代を代表する日本画家安田靫彦(1884~1978)は、明治末から大正・昭和の長きにわたって、歴史や文学を題材にした人物画により新たな日本画を創造し続けました。画業の初期に見られた物語の場面を説明するような作風は、登場人物の内面に迫った人物表現へと展開し、さらに、日本や東洋の古美術を研究することで、理知的な構図と典雅な色彩、そして緊張感のある線描による独自の芸術を開花させました。また、歴史人物画で培った深い洞察力は、盟友の今村紫紅や親交のあった谷崎潤一郎らを描く際にも発揮され、その人柄まで表す優れた肖像画を遺しています。
岡倉天心に認められた安田靫彦は、明治40(1907)年、茨城県五浦の日本美術院研究所に招かれ、ニ本画の近代化に邁進する横山大観や菱田春草らの真摯な政策の姿勢に感銘を受けました。これを機に大きく飛躍した靫彦は、大正3(1314)年には大観らと日本美術院の再興に参加しその後再興院展の中心画家として活躍します。靫彦は平成20年に没後30年を迎えましたが、この展覧会では、画家靫彦にとってゆかりのある茨城の地で、歴史人物画、肖像画、そして静物画など、多岐にわたった芸術の魅力を約100点によりご紹介いたします。この機会にぜひご鑑賞いただければと思います。