扇は、暑さをしのぐための実用品としてはもとより、日々の生活のアクセサリー、儀礼や芸能の場で用いる道具など、さまざまな形で日本人に用いられてきました。また、その形状が「末広がり」を連想させることから、古来、縁起のよいものとして親しまれています。
同時に、扇に絵を描く「扇絵」は絵画表現の一形式でもあり、数多くの絵師によって、扇はさながらキャンバスのように美しく彩られてきたのです。
扇は破損しやすいため、現存している数は、当時の数と比べればごく僅かなものに過ぎません。その中で、大阪の豪商・鴻池家から譲り受けた当館の扇絵コレクションは、浮世絵派、琳派、土佐派、狩野派、円山四条派など、近世に活躍したさまざまな流派の絵師たちの作品900点以上を所蔵しており、扇絵の歴史を語る上で欠かすことができない貴重なものとなっております。
本展覧会では、鴻池コレクションのなかから、七福神や松竹梅、鶴や亀といった、縁起の良いテーマを描いた扇を集め、展観いたします。「末広がり」の扇を彩った、さまざまな絵師による扇絵の数々。二重におめでたい、正月にぴったりの展示をお楽しみください。