日本の絵画には、リアリズムのみを目指さずに、描き手の心のうちを素朴な表現で描き出そうとしたものが多く見られます。その萌芽は室町時代の御伽草子などに求められますが、江戸時代には大津絵や禅僧白隠の禅画、自らの心情を率直に表現した浦上玉堂の南画などに、見る者の心を和ませる表現が生み出されました。そうした素朴表現は、明治の写実の時代をはさんで大正期以降に受け継がれ、リアリズムに徹した絵画には求め得ない、日本的な味わいに富んだ絵画が描かれました。本展は「写実を目指さない具象絵画」を素朴画と規定し、その近世から近代にいたる展覧会を探ろうとするものです。