本年は、近代日本画の世界において、平安朝以来の「やまと絵」を復興させ発展させた日本画家・松岡映丘(1881-1938)の没後70年にあたります。当館ではこの節目の年に、映丘とその門下生たちの画業を振り返る展覧会を開催いたします。
国学者の井上通泰、民俗学者の柳田国男、言語学者の松岡静雄を実兄にもつ映丘は、日本の歴史・文化に深い理解を示した画家でした。同時に、東京美術学校教授として山口蓬春、吉村忠夫、山本丘人、橋本明治、杉山寧、髙山辰雄など数多くの優秀な人材を育てた有能な指導者としても知られています。
大正から昭和にかけての時代に、映丘が代表作《山科の宿》などで実現した古絵巻をもとにしたスタイルの可能性は、門下生たちにより自由な広がりをもって受け継がれていきます。絵巻のエッセンスを抽出し、師との合作を完成させた吉村忠夫の《伊勢物語(合作) 第23段「筒井筒」》。やまと絵に通じる題材を選びながらも、近代的な色彩と装飾性を加えて発展させた山口蓬春の《錦秋》や橋本明治の《月庭》。ある瞬間を印象的にとらえた杉山寧の《霽(せい)》や髙山辰雄の《中秋》で表現された独自の様式美――。映丘一門が確立し表現しようと試みた美の形は実にさまざまです。
本展では、一見まったく異なるようにも見える約50点の作品の中に、脈々と流れる松岡映丘とその門下生たちが共有する「やまと絵の精神」をご紹介いたします。