「版」とは、古来から「字を刻んだ印刷用の板」「印刷の原版」を意味しています。この「版」を使って創作された絵画として、一般的には版画が知られていますが、版画には「版」に使用している材料によって、木版画、銅版画、リトグラフ(石版画)、シルクスクリーン、ステンシル(合羽版)などがあります。また、版画に限ることなく、「版」による技法を拡大すれば、写真、印刷、コピー、スタンプ、フロッタージュなど、より多様多彩なものが考えられます。さらに、「版」による表現(何らかのものを「版」として何らかのものに転写するという間接的な技法による表現)の本質から考えるならば、手形などの「痕跡」や人間などの「影」、あるイメージを映写する「鏡」、転写によるイメージの「反転」、模写による「複数性」と個別化するための「手彩色」など、「版」による表現の可能性は無限に拡がっていきます。
今回の特別展では、国内外の優れた版画(山本鼎、北川民次、三岸好太郎、シャガール、ピカソ、ホックニーなど)や「版」による表現を駆使した現代美術(荒川修作、河原温、赤瀬川原平、フンデルトワッサー、ヴィアラ、ベッヒャーなど)に加えて、特別出品として、独創的な「版」による表現で制作している美術家である磯見輝夫、設楽知昭、藤本由紀夫の作品や版画制作に使用される道具・材料なども展示することで、多様多彩な「版」による表現の面白さ、楽しさを総合的に紹介します。
会場入り口で来館者全員にお渡しする観賞用のパンフレットを片手に、じっくりと「版」の誘惑展をお楽しみください。