葛飾北斎(1760-1849)の「凱風快晴」「神奈川沖浪裏」などのタイトルは知らなくても、雄大な赤富士や、逆巻く大波の画像を印象深く覚えている人は多いことでしょう。これらの作品が含まれた「冨嶽三十六景」シリーズは、風景版画というジャンルを役者絵、美人画と同じ位置に高め、北斎の名を不動のものにしました。北斎の富士山に取り組む意欲は、「冨嶽三十六景」では収まりきれず、のちに天保5(1834)年より『富嶽百景』(全3冊)を上梓しました。
本展は、北斎の二大富士シリーズ「冨嶽三十六景」と『富嶽百景』を同時に紹介するものです。「冨嶽三十六景」は全46図に、同図ながら彩色が異なる4図を加えた50点、『富嶽百景』は図版を一点ずつ額装した全102点に、極めて早い時期に摺られた原本3冊の合計155点を展示します。北斎にとって富士とは何であったのかを探るとともに、北斎芸術の新たな魅力を再確認することができるでしょう。