「春の花」と言えば、ほとんどの人は桜を思い浮かべるでしょう。実際、満開の桜並木は、いかにも麗らかな日本の春の情景として定着していますし、また、散り行く薄紅の花吹雪にも、日本人の情緒をくすぐる趣きと儚さがあります。そんな桜に対して、梅はどうでしょうか。まだ寒さ厳しい時期に楚々とした花を付け馥郁たる香りを放って春の到来をいち早く知らせてくれる梅は、桜とは異なる気品があります。そんな梅もやはり、古来、日本人を大いに魅了してきた花です。
梅は主に中国文化との関わりの中で、愛でられてきました。中国では、厳寒に咲く梅は、一年中常緑を保つ松・竹とともに、高潔で志の高い人物にたとえられます。その代表が北宋の詩人・林和靖。彼は杭州西湖のほとりに庵を構え、庭に梅を植えて、鶴を飼い、世俗をはなれて詩作に没頭しました。日本の芸術家たちも、文化人の象徴として彼に憧れ、その姿や暮らしに自己を投影し、その詩の世界を美術品の中に表しました。
今回は、所蔵品の中から梅花を主題にした絵画・工芸品を集めて展示します。美術鑑賞の後は、松山城へ梅見というのも一興です。