誰でも一度は目にする「麗子像」、その作品を描いた岸田劉生(1891-1929)は、近代の日本美術の中で最も個性的な画家のひとりです。
劉生は、17歳のとき黒田清輝の下で油彩を学び、その後ゴッホやセザンヌら後期印象派、デューラーら北方ルネサンスの写実に強く影響を受け、独自の作品を次々に生み出します。洋画家として広く知られる劉生ですが、のちに浮世絵や中国の宋元画といった東洋の美に惹かれ日本画を制作するなど、その作品は実に変化に富んでいます。
劉生の作品には、常に「内なる美」が宿っています。対象を深く見つめ、表面からは見えない、その内に在る確固たる存在感、本質を描く。それは、人やものがこの世に存在することの不思議さと神秘を意識していた劉生ならではの表現方法であり、だからこそ劉生作品は現代も多くの人を魅了してやまないのかもしれません。
本展では、《自画像》、《村娘之図》、愛娘麗子を描き始めた頃の5歳の《麗子之像》、そして劉生晩年の《麗子十六歳之像》などの代表作をはじめ、多岐にわたる作品約120点を展示し、38年の生涯を駆け抜けた画家の新たな魅力を紹介します。