みなさんは仏師というと、どの時代の誰を思い浮かべますか。多くの人は飛鳥時代の止利仏師、平安時代の定朝、鎌倉時代の運慶や快慶といったところを、まずは最初に思い浮かべるのではないでしょうか。それは、仏像を専門とする研究者にしても同様で、近世の仏師については、これまであまり研究が行なわれてきませんでした。ところが近年になって、江戸時代の仏師や彼らが製作した仏像などにも次第に注目が集まってきています。
今回特集する清水隆慶も、江戸時代に京都で活躍した仏師で、四代まで続きました。今回はそのうち、麟岡(りんこう)と名乗った初代(一六五九~一七三二)と、毘首門亭(びしゅもんてい)を名乗った二代(一七二九~九五)の作品を展示します。といっても仏像ではなく、仏師の余技ともいうべき風俗人形の類が中心です。初代隆慶自身は、これらを「老いらくのてんごう(老人のいたずら)」と称しました。仏像造りに使う技能を世俗的なものに使ってしまった、という照れからでしょうか。しかし、さまざまな造形上の約束事がある仏像にくらべると、これら人形類は、自由な発想でのびのびと製作され、巧みな彫技が遺憾なく発揮されています。江戸時代の京仏師のてんごうぶりを、じっくりとご覧ください。