1960年代半ばに巻き起こった怪獣ブームは一世を風靡し、多くの子どもたちの心を魅了しました。そのデザインの奇抜さと斬新さは、怪獣が実在しないにもかかわらず、不思議なリアリティを帯び、子どもたちの夢を育みました。日本の怪獣デザインは、先行する海外特撮の怪物と一線を画する独自の作品傾向を形成しました。それは、抽象化や複数の要素の合成など前衛芸術の手法の応用です。そこには確固とした造形理念を読み取ることができます。
怪獣創作に携わった、代表的な美術家が成田亨(1929-2002)です。成田は『ウルトラQ』、『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』などで非常に個性的かつ美しい怪獣たちを生み出しましたが、新制作展に作品を発表し新作家賞を受賞するなど気鋭の彫刻家でした。生命感の宿る、高い精神性をたたえた半ば抽象化されたフォルムは、高く評価され脚光を浴びました。
本展は、成田亨をはじめとして、成田が描いた怪獣を立体化した高山良策(1917-82)、成田の後を継いで『ウルトラセブン』の怪獣デザインを手がけ、第二次怪獣ブームを支えた池谷仙克(1940-)、今日の怪獣造形の第一人者である原口智生(1960-)の作品を紹介いたします。直接怪獣を主題としていない絵画や彫刻と怪獣作品を一堂に展覧することによって、それらが分かちがたく結びついていることを提示し、怪獣作品を新たな視点で捉え直すことが本展の目的です。怪獣デザインや造形は、彼らの創作活動の一環であり、決して特殊なものではなかったことをご理解いただけることでしょう。さらに、怪獣を手がけた経験が彼らに新たなモチーフを提供し、絵画、彫刻作品にいかに反映しているのか見ることも興味深いことでしょう。