スローフード、スローライフ、ロハスといった言葉が一般的に語られるようになり、ゆっくりなことが見直されるようになってずいぶん経ちます。ただ、社会は本当にゆっくりなことを認めるようになったでしょうか。実際には、デジタル化された情報への依存度がますます高まり、より高度な効率性・利便性の追求にいっそう拍車がかかっています。その中で「スロー」は、単にその目まぐるしさをほんのひととき忘れるための工夫としてのみ許されているというのが実情ではないでしょうか。
本展は、そうした速さを念頭におかない遅さ、いいかえれば、速度を気にすることのない時間の捉え方を実感する機会となることをめざし、赤崎みま、松井智惠、森口ゆたかによる仕事を紹介します。その作品は、たとえば、一見取るに足らないように思える細部に飽くことなく目を凝らしたり、規則や体系からははみ出してしまう断片的なものを見つめるといった、立ち止まりや逆戻り、矛盾や混沌をゆるやかに肯定する視線に満ちています。
本展が、速さと遅さの対比で語られる時間とは別種の時間を生きる体験となれば幸いです。