伊勢物語は、和歌とそれが生まれる経緯をつづった雅や恋などの短編の物語です。古今和歌集が成立した延喜5年(905)以前に原初の物語ができ、その後、章段が増していき、鎌倉時代に藤原定家によって125段に編纂されてから、江戸時代を通じて広く普及し、現在に至っています。
各章段の冒頭にある「昔、おとこありけり・・・」という一説は簡潔で、読者の記憶に長く留まります。それに続く本文も短いため、通読しやすいという特徴を備えています。
この物語は絵画や工芸に題材を提供し、平安時代以降、多くの作品が生まれました。また茶、能、香の世界でもこの物語に範を置くものがあるなど、多くの分野で愛好されています。
本展は、伊勢物語を主題とする鎌倉時代以降に制作された絵巻や蒔絵などの作品約140点を選び、伊勢物語の豊かな造形美を紹介しながら、この物語が芸術の分野に与えた影響や意義などについて考えていきます。