「決定的瞬間」をとらえた写真家として知られるフランスの写真家アンリ・カルティエ=ブレッソン(1908-2004)。
彼は絵画を学んだ後、1930年代初頭に、本格的に写真にとりくみはじめます。35mmカメラによるスナップショットの先駆者として、独特の鋭い感性と卓越した技術を結晶させたその写真表現は、ごく早い時期から、高い完成度を示していました。
1952年に初の写真集『逃げ去るイメージ(Image a la sauvette)』(*)を出版。そのアメリカ版の表題である『決定的瞬間(The Decisive Moment)』は、カルティエ=ブレッソンの写真の代名詞として知られるようになります。
日常のなかの一瞬の光景を、忘れがたいイメージへと結晶させる作品は、同時代の写真表現に大きな影響を与えました。日本でも1950年代にその仕事が紹介されると大きな反響を呼び、その作品は広く愛されてきました。
本展は、初期作から代表作まで、貴重なヴィンテージ・プリントを含む写真作品を中心に、幼少期のファミリー・アルバムなど初公開の資料類、そして絵画への深い関心をものがたる油彩や素描を含む、約350点によって、その全貌をたどるものです。
多角的な章構成
「ヨーロッパ」「アメリカ」「インド」「中国」「ソヴィエト」など、取材した国や地域ごとの章に加えて、「ポートレイト」「風景」といったジャンルによる章、またそうした枠組みをとりはらってよく知られた代表作だけを集めた「クラシック」の章など、この展覧会は、多角的な視点からアンリ・カルティエ=ブレッソン(HCB)の仕事の全貌をたどります。そこで浮かび上がってくるのは、眼の前の世界が完璧な調和をみせる一瞬を捕獲する妥協なき芸術家としてのまなざしや、ガンジー暗殺や中国共産党政権の成立など、適確な時と場所にいあわせて歴史の分岐点を目撃するというジャーナリストとしてのすぐれた資質です。
多角的な視点から、HCBの多面性が見えてくるのです。
本展は、ヨーロッパ以外では初めての巡回であり、日本国内では東京国立近代美術館のみの開催です。本展は、パリのアンリ・カルティエ=ブレッソン財団とマグナム・フォトの協力によって制作されました。
(*)a la sauvetteの「a」は、正しくはアクサン・グラーヴがつきます。