平山郁夫は昭和5(1930)年,現在の広島県尾道市瀬戸田町に生まれました。昭和27(1952)年に東京美術学校(現東京藝術大学)を卒業後,再興日本美術院展に出品を続け,《仏教伝来》をはじめ,仏教に関する伝説や逸話に基づく文学的で抒情性豊かな作品で大きな注目を浴びました。その後,玄奘三蔵のインドへの求法の道を追体験するとともに,ヨーロッパとアジアを結ぶシルクロードを旅し,そこで繰り広げられた雄大な歴史の流れに感銘を受けて,風景としての歴史画ともいうべき独特の画風をもつ作品を次々と生み出し,画壇での確かな位置を獲得しました。その成果は奈良・薬師寺にある玄奘三蔵院の大壁画となって結実しますが,一方でシルクロードの東端に花開いた日本の伝統的な文化にも大きな関心を寄せ,奈良や京都のみならず日本各地に取材した作品に新しい境地を切り開いてきました。
こうした活発な制作活動のかたわら,世界の歴史的な文化遺産の保存を目指した文化財赤十字構想を提唱して積極的に行動するほか,母校である東京藝術大学において長年にわたって後進の指導にもあたってきました。その幅広い活動が画家としての強い使命感によっていることはいうまでもありませんが,被爆者としての原体験を通じた,生きること,生かされていることの意味への深い問いかけと,そこからくる平和への切実な祈りがその行動の根底にあることを見逃すわけにはいきません。
この展覧会は今年七十七歳の喜寿を迎えられることを記念して企画されたもので,半世紀以上にわたる平山郁夫の芸術の軌跡を辿るとともに,その芸術の本質を明らかにしようとする試みです。