日本人の心を魅了してきた富士山は、古来から文学や美術工芸、芸能などさまざまな芸術のテーマにとりあげられてきました。殊に美術の分野では、富士山の崇高で美しい姿は多くの画家の心をとらえ、各時代の各流派によって描き継がれ、日本絵画史上もっとも人気の高いテーマのひとつになりました。
富士山はまず、平安時代の遺品のなかに、峰を重ねた急峻な姿で見出されます。やがて鎌倉時代には頂きが三つにわかれた「三峰型」の形が定着し、室町時代には曼荼羅や物語絵、水墨の詩画軸など、さまざまな絵画の中に見られるようになります。
そして江戸時代、種々の流派がそれぞれの様式に基づいた富士山を描くなかで、南画家たちは既存の様式にとらわれず、自らの視覚体験とものの見方をよりどころとした、当時としては先進的な描き方で富士山の絵画化に挑みました。
今展では、東海道から富士山を仰いだことのある田能村竹田の作品を中心に、豊後の南画家たちの描いた富士図を特集して展示します。
主な展示作品
・田能村竹田(たのむら ちくでん)
「富士図(ふじず)」1819年<重要文化財>
・平野五岳(ひらの ごがく)
「富嶽図(ふがくず)」1880年
・甲斐虎山(かい こざん)
「富岳瑞雲図(ふがくずいうんず))」