鉛筆や筆を手にして紙に最初の線を引くとき、画家たちの誰もが新鮮な悦びを覚えます。線を重ね、やがて形が生まれ、色を差していくと、画家それぞれの個性的な絵が生まれます。何かを写生するのであっても、頭のなかに浮かんだイメージを表すのであっても、絵の始まりを印すデッサンには初々しさがいきづいています。
墨の線、鉛筆の線、ペンの線、それとも色の線、画家たちは線の役割の大事さを知っていて、線の習練を怠たることがありません。安田靫彦、前田青邨、青山義雄、野口弥太郎、鳥海青児、四方田草炎、海老原喜之助、原精一、松本竣介、麻生三郎。神奈川県立近代美術館が所蔵する数多くのデッサンのコレクションから、デッサンの魅力をたっぷり湛えたこれら10人の作品を選びました。線だけで描いたもの、色に比重を傾けたもの。約80点のデッサンを通して、変化に富んだ線と色の扱いを楽しみながら、画家たちの悦びに溢れた絵の始まりを覗いていきます。