20世紀前半から中盤にかけて挿絵本は一つの黄金期を迎えたと言えるでしょう。前世紀から続く版画への関心の高まりと技術革新、画家たちによる実験的な制作を背景とし、ヴォラールやスキラ、テリアードといった出版者が牽引役となって豊かな挿絵本の世界が花開きました。モダンアートの作家たちは有能な刷り師の協力を得て版画特有の様々な表現を試み、一点一点が独立した作品として成立し得る挿絵を作り上げました。しかもこのような挿絵は、あるテーマのもとに制作された連作版画として、単独の版画作品とは異なる広がりや魅力を有しています。
「本をめぐるアート」を収集方針とする当館ではこれまで多くの挿絵本を収集してきましたが、その中身をじっくり紹介する機会には恵まれませんでした。そこで今回は代表的な挿絵本9作品をピックアップし、3章に分けて紹介します。シャガールやピカソが描いた動物たち。サーカスに魅了されたマティス、レジェ、コールダーの色と形、リズム。ロンゴスやラブレー、ジャリ、ツァラのテキストを彩ったドランやミロ、シャガール。展示替えを挟みながら版画による挿絵を約250点展示します。
ビュフォンのテキストから離れ、自由に動物を描いたピカソや、寓話の登場動物を好みで入れ替えたシャガール、挿絵を制作した後に自身で文章を書いたレジェやマティス、テキストと見事に調和させたミロなど文と絵の関係は様々ですが、いずれも創造性と独創性のあふれる版画となっています。作品成立をめぐる背景やあらすじ、画家たちの解釈と工夫と共に、版画の濃密な世界をお楽しみください。