第34回中原悌二郎賞を受賞した保井智貴(1974-)は、乾漆や螺鈿といった工芸技法を用いた人間像で注目されている新鋭作家です。
現代的なスタイルと伝統的な工芸技法とが同居し融合した保井智貴の人間像は、不思議なたたずまいを見せます。
商業製品や工芸作品的な側面を持ちながらそのいずれでもなく、また、近代彫刻の萌芽から連綿と受け継がれてきた人体表現の指向性とも一線を画した彫刻作品として、まったく新しい独自のスタンスを築いたものだと言えるでしょう。
身振りや表情といったものが極力排除された人物たちは、日常のものとは異なったどこまでも静謐な時間の移ろいを作品周囲に感じさせます。そして、衣服に散りばめられた螺鈿の光彩や瞳の貴石が作品に神秘的な装いまとわせており、観る者を詩的な空間へと誘う魅力に満ちています。
本展では、人間像を中心に動物作品なども交えながら、保井智貴が展開する新しい彫刻の姿を紹介します。