ランニング姿で、リュックサック一つを背負って、おむすびを食べて、日本のあちこちを旅して、スケッチして、すばらしい作品を残して、また、どこかへ-。多くの日本人に今も愛される画家・山下清(1922~1971)。私たちの中にある彼のイメージは、このようなものかもしれません。しかし、実際はどうだったのでしょう。
今回の展覧会では、戦争をはさんで昭和という時代を生きた山下の画業の全貌をご覧いただきます。施設「八幡学園」でちぎり絵と出合った頃描いた虫や花たち、そして学園生活。放浪時代の鉛筆画や貼絵。芸術家としての才能をさらに広げていった油絵や、ペン画、陶器の絵付。ヨーロッパの風景を描いた作品の数々、そして、遺作となった「東海道五十三次」…殆ど旅先でのスケッチはせず、驚異的な記憶力と集中力と几帳面さによって製作されたこれらの作品は、日本人が愛する風物の美しさをたたえ、古き良き昭和の時代を伝えると共に、一人の人間として、芸術家としての山下像を伝えてくれることでしょう。
「今年の花美見物はどこへ行こうかなあ」という言葉を残し、49歳でこの世を去った山下清。彼の眼には、どんな花火が映っていたのでしょうか?