生涯におよそ9600点にのぼる作品を描いたスイス出身の画家パウル・クレー(1879-1940)。紙、麻布、厚紙、ガラス、新聞紙などさまざまな支持体を用い、自製の絵具や独自に編み出した技法をも駆使し、ときに画枠までも自製する-20世紀前半を活躍の場とした近代画家でありながら、そうした制作の態度は、細かな手仕事の積み重ねによって実験を繰り返す、まるで職人のようでもあります。その小さな画面は、手仕事的な実験と緻密な造形思考から生み出された、まさに芸術的な創造の宇宙です。本展は、「Ⅰ光の絵」、「Ⅱ自然と抽象」、「Ⅲエネルギーの造形」、「Ⅳイメージの遊び場」、「Ⅴ物語る風景」という五つの視座から、クレーの生涯にわたる芸術世界を読み解いてまいります。出品作品は、ドイツと日本のクレー・コレクションから、本邦初公開の作品を含む油彩、水彩、素描、版画など優品約160点です。
ドイツから世界有数のクレー・コレクションが来日
デュッセルドルフのノルトライン=ヴェストファーレン美術館、ハノーファーのシュプレンゲル美術館、ヴッパータールのフォン・デア・ハイト美術館が所蔵する世界有数のクレー・コレクションは、いずれも西洋近代美術の稀有な蒐集家に由来しています。ジョージ・デーヴィッド・トンプソン(1898-1965)、マルグリット(1908-1997)&ベルンハルト・シュプレンゲル(1899-1985)夫妻、ルドルフ・イーバッハ(1873-1940)-かれら蒐集家の尽力、そしてほかならぬクレー芸術に注がれた愛着と趣向は、それぞれのコレクションの個性となって息づいています。本展は、これらドイツ有数のクレー・コレクションを包括的に展観する初めての機会です。