日本の暮らしには、季節にふさわしい衣服を着用する更衣(ころもがえ)があり、旧暦の5月5日から8月末までは夏のきものが着用されました。この慣習は近代、現代にも引き継がれ、夏のきものならではの特色をみることができます。
高温多湿な日本の夏を快適に過ごすため、夏のきものにはさまざまな工夫がこらされてきました。通気性に富んだ薄い生地や透けた生地、肌ざわりのよい生地を選び、裏を付けずに仕立てます。そして、絹地を「単衣(ひとえ)」、麻地を「帷子(かたびら)」、木綿地を「浴衣(ゆかた)」と呼び慣わしています。地色は白や藍系統の色が多く、また、文様は流水や波、水辺の風景など水に因んだもの、涼しい季節を先取りした秋草などが好まれ、視覚的にも涼しさが演出されています。夏のきものに見られるこのような特色は、自然と共生し、季節感を大切にする日本人の暮らしぶりが反映されているといえるでしょう。
本展では江戸時代後期の武家、公家、町方女性の夏のきもの、明治時代から昭和初期にかけての晴れ着、日常着としての夏のきもの約60点を館蔵資料によって紹介します。