季節と言っても様々な表情を持っています。清方は清澄な晩秋を好んでいました。秋が深まると、山茶花の咲くのを待ちわび、花が散る頃、寂びを楽しむ冬に心誘われています。幼い頃祖母は、こおろぎの音が、針と糸で肩させ裾させと鳴いているように聞こえると言って、縫い物などの冬支度をはじめていたと、清方は随筆に書いています。
忙しさの中、ともすると聞き漏らしてしまいそうな季節の呼びかけに、清方は耳を傾け作品を製作しました。
秋風が立つ中、裾をかき合わせる女性の一瞬の仕草を捉えた「築地明石町」は、代表作のひとつです。足もとの柵には、萎んだ朝顔が、巻きついています。「秋宵」では、ヴァイオリンを弾く女性の傍ら、闇の中にひっそりと萩が咲いています。「孤児院」の背景には、黄葉した銀杏や、深紅や橙色に染め分けられた楓が描かれています。
「築地明石町」(下絵)、「秋宵」、「孤児院」、「菊慈童」、「初雁の御歌」(小下絵)など初秋から晩秋、初冬を題材にした作品をはじめ、「清方畫譜」と題して、十二ヶ月の風俗を取上げた『講談雑誌』の口絵などをご覧いただきます。