大正2年8月3日の『大阪毎日新聞』紙上に掲載された「名家の嗜好」と題されたアンケートで、竹久夢二は「貴下の最も好まるる草花、樹木」との問いに「月見草。ポプラ。」と回答しています。彼の好んだ植物としては、他に「竹久」の名にちなんだ「竹」がよく知られています。
夢二の作品の中には、チューリップやバラ、カンナ、アマリリスなど観賞用としてもたらされた外来種の華やかな花も登場しますが、その大半は、梅、桜、椿、どくだみ、野いちご、たんぽぽ、百合など、日本でも古くから馴染みの深い樹木や草花です。夢二の描く植物は、草花の形体の緻密な観察と、植物に対する豊富な知識に裏付けられています。
彼はまた、「宵待草」の歌に代表されるように、植物や花を題材に詠んだ詩歌やエッセイを多数残しています。
本展覧会では、日本画をはじめ、書籍や楽譜装幀、デザイン小物に意匠化された草花図案や、吉祥の表現として利用された植物図、詩歌や文章に著された草花など、夢二の描いた多彩な〈花〉のイメージをご紹介します。